映画『紙の月』ストーリー

1994年梅澤梨花(宮沢りえ)は、子どもには恵まれなかったものの夫(田辺誠一)と穏やかな日々を送り、契約社員として働く「わかば銀行」でも、丁寧な仕事ぶりで上司の井上(近藤芳正)から高い評価を得ていた。裕福な独居老人の平林(石橋蓮司)も、梨花の丁寧な仕事に信頼を寄せている顧客のひとりだ。厳格なベテラン事務員の隅(小林聡美)、まだ若くちゃっかり者の窓口係・相川(大島優子)ら、支店では様々な女性たちが働いている。一見、何不自由のない生活を送っている梨花だが、自分への関心が薄く、鈍感なところのある夫との間には空虚感が漂いはじめていた。

ある夜、梨花は平林の家で一度顔を合わせた、孫の光太(池松壮亮)と再会し、何かに導かれるように、大学生である彼との逢瀬を重ねるようになる。外回りの帰り道にふと立ち寄った、百貨店の化粧品売り場。支払い時にカードもなく、現金が足りないことに気付いた梨花が手をつけたのは、顧客からの預かり金の内の1万円。銀行に戻る前に、すぐに自分の銀行口座から1万円を引き出して袋の中に戻したが、これがすべての始まりだった。

学費のために借金をしているという光太に「顧客からの定期申込みがキャンセルになった」という方法で手に入れた200万円を渡す梨花。顧客から預かった300万円を自分の通帳に入れたり、自宅で定期預金証書や支店印のコピーを偽造するなど、横領する額は日増しにエスカレートしていく。上海に赴任する夫にはついて行かず、光太と一緒に高級ホテルやマンションで過ごす時間は贅沢になり、梨花の感覚と日常が少しずつ歪み、暴走しはじめる-。

小額ずつではあるが梨花に返済していた光太の行動にも変化が現れ、大学を辞めたことを告げられた頃、事務員の隅が、銀行内で不自然な記録や書類の不備が続いていることに気付き、不審を抱きはじめる。疑いの目を向けられ、追い詰められた梨花が取った行動とは?そしてその先に彼女が見たものとは・・・・・。

ロケ地撮影スポット

驚きの撮影都市・神戸

舞台設定は横浜郊外だが、電車やホテル、百貨店シーンなどは神戸ロケだ。老舗・神戸フィルムオフィスの、親身な対応・信頼に培われた地元交渉・現場ケアの熟練ぶりには驚きの一言。なかでも電車、ホーム、駅前と多岐にわたり撮影をした神戸市営地下鉄のロケは忘れられない。

撮影開始直前の正月明け、魅力ある風景に魅かれて、急遽神戸ロケを選択。打合わせのためにすぐ飛んで、夕暮れの市役所奥の古い会議室に通されると、そこには総勢15名の男たちがコの字型に居並んでいた。スーツに作業着、駅員制服とそれぞれ格好は違うが、みな市営地下鉄各部署のエキスパート。沈黙の中、恐る恐る身勝手な要望をあれこれ伝え、「実は3週間後には撮影したいんですけど・・・」というと、みな呆れた表情。フィルムオフィス担当者「そこをなんとかお願いします」、男たち、うーんと唸って沈黙。やがて「ほんとにやるん?」「まあ県庁駅前ならどうやろ」「終電0時14分だから車庫50分発で1時5分着」「それ3000系のこと?どの車両が欲しいん?」「90年代?乗客役は切符?パスカード?何人いるの?」乱れ飛ぶ会話に呆気にとられるうちに「まあやりましょ、でも、こんなんきついわ、ワハハハ」

3週間後、寒さに震える1月27日未明にクランクイン。終電後の長田駅に地元のエキストラ120名の皆さんとともに地下鉄エキスパートたちの笑顔があった。1週間、朝昼夜と身勝手に地下鉄を撮影し続けて、神戸ロケを終えたとき、せめてお礼でもと食事に誘ったが「嬉しいけど我々公務員だから」と辞退。別れ際まで本当にプロフェッショナルな伊達男たちだった。「撮影都市・神戸」が恋しい。

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ロケ地紹介

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